最低賃金は厚生労働省によって毎年7〜8月ごろに引き上げ額が決定し、10月ごろに改定が実施されます。2024年度は、過去最高の引き上げ幅となった昨年の全国平均前年度比43円増を上回り、47都道府県で50~84円の引き上げとなりました。この大幅な改定により、企業は必要に応じて経営や採用戦略の見直しが必要となります。
本記事では、2024年度の最低賃金の大幅な引き上げの背景や、改定に伴う課題と対応策について解説します。ぜひご参考にしてください。
目次
最低賃金の概要と、過去最高の引き上げ幅となった背景
まずはじめに、最低賃金の概要と、2024年度の改定が過去最高の引き上げ幅となった背景について解説します。
最低賃金とは
最低賃金とは、労働者の生活を守るために、企業が従業員に必ず支払わなければならない最低限の賃金(時給)を指します。地域別に決定される最低賃金は、時給支給のパートタイムやアルバイトだけでなく、正社員や契約社員など雇用形態や職種に関係なく、各都道府県内の事業所で働く労働者に共通して適用されます。
最低賃金を下回った場合
最低賃金は最低賃金法によって定められており、最低賃金を下回る賃金を支払った企業や経営者には、罰金(50万円以下)が課せられます。最低賃金に満たない額で労働者と使用者間で合意した場合でも、金額の部分については無効となり、使用者は差額を支払わなければなりません。もし、使用者が差額を支払わなかった場合には、罰則を受けることになります。
最低賃金の決め方
最低賃金の改定は、毎年10月ごろに行われます。これに先立ち、中央最低賃金審議会より最低賃金引き上げ額の目安が、都道府県の経済実態に応じて分けられたABCの3ランクごとに提示されますが、2024年度はABCの3ランクとも50円の引き上げ額が示されました。
しかし、実際の引き上げ額は、A地域に比べて賃金水準の低いB・C地域を中心に目安額を上回り、徳島の84円増に次いで岩手と愛媛が59円と続きました。これにより、もっとも高い東京都の最低賃金は1,163円となり、もっとも低い秋田県は951円となります。※詳細につきましては、後述の「各都道府県の最低賃金一覧」でご確認くだささい
ランク | 都道府県 |
A | 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 |
B | 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 |
C | 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 |
最低賃金についてはこちらのコラムでより詳細にご紹介しています。合わせてご確認ください。
2023年10月〜最低賃金はいくらになる? 全国一覧と採用時の対策・注意点過去最高の引き上げ幅となった背景
前述でもお伝えしたとおり、2024年度の最低賃金の引き上げ幅は過去最大である全国平均51円増となりました。新型コロナの影響を受けた2020年度は1円の引き上げでしたが、2021年度からは3年連続で過去最大の引き上げ幅となっています。これにより、全国平均で時給1,054円となり、16都道府県で1,000円を超えました。さらに、政府は2030年代半ばまでに最低賃金を1,500円とする目標を新たに掲げました。
この背景には、物価高の影響だけではなく、賃上げすることで消費を拡大し、デフレ経済からの脱却を目指す政府の方針が、大幅な賃上げにつながったといえます。
改定後の各都道府県の最低賃金一覧
2024年度の各都道府県の最低賃金一覧です。
各都道府県の最低賃金一覧
2024年度における各都道府県の最低賃金は、10月1日以降、順次適用されます。以下の表では、47都道府県の改定後の最低賃金と引き上げ額、発効予定日をまとめています。
都道府県 | 最低賃金(円) | 引き上げ額(円) | 発効予定日 |
北海道 | 1,010 | 50 | 2024年10月1日 |
青森 | 953 | 55 | 2024年10月5日 |
岩手 | 952 | 59 | 2024年10月27日 |
宮城 | 973 | 50 | 2024年10月1日 |
秋田 | 951 | 54 | 2024年10月1日 |
山形 | 955 | 55 | 2024年10月19日 |
福島 | 955 | 55 | 2024年10月5日 |
茨城 | 1,005 | 52 | 2024年10月1日 |
栃木 | 1,004 | 50 | 2024年10月1日 |
群馬 | 985 | 50 | 2024年10月4日 |
埼玉 | 1,078 | 50 | 2024年10月1日 |
千葉 | 1,076 | 50 | 2024年10月1日 |
東京 | 1,163 | 50 | 2024年10月1日 |
神奈川 | 1,162 | 50 | 2024年10月1日 |
新潟 | 985 | 54 | 2024年10月1日 |
富山 | 998 | 50 | 2024年10月1日 |
石川 | 984 | 51 | 2024年10月5日 |
福井 | 984 | 53 | 2024年10月5日 |
山梨 | 988 | 50 | 2024年10月1日 |
長野 | 998 | 50 | 2024年10月1日 |
岐阜 | 1,001 | 51 | 2024年10月1日 |
静岡 | 1,034 | 50 | 2024年10月1日 |
愛知 | 1,077 | 50 | 2024年10月1日 |
三重 | 1,023 | 50 | 2024年10月1日 |
滋賀 | 1,013 | 50 | 2024年10月1日 |
京都 | 1,053 | 50 | 2024年10月1日 |
大阪 | 1,104 | 50 | 2024年10月1日 |
兵庫 | 1,052 | 51 | 2024年10月1日 |
奈良 | 986 | 50 | 2024年10月1日 |
和歌山 | 980 | 51 | 2024年10月1日 |
鳥取 | 957 | 57 | 2024年10月5日 |
島根 | 962 | 58 | 2024年10月12日 |
岡山 | 982 | 50 | 2024年10月2日 |
広島 | 1,020 | 50 | 2024年10月1日 |
山口 | 979 | 51 | 2024年10月1日 |
徳島 | 980 | 84 | 2024年11月1日 |
香川 | 970 | 52 | 2024年10月2日 |
愛媛 | 956 | 59 | 2024年10月13日 |
高知 | 952 | 55 | 2024年10月9日 |
福岡 | 992 | 51 | 2024年10月5日 |
佐賀 | 956 | 56 | 2024年10月17日 |
長崎 | 953 | 55 | 2024年10月12日 |
熊本 | 952 | 54 | 2024年10月5日 |
大分 | 954 | 55 | 2024年10月5日 |
宮崎 | 952 | 55 | 2024年10月5日 |
鹿児島 | 953 | 56 | 2024年10月5日 |
沖縄 | 952 | 56 | 2024年10月9日 |
最低賃金の計算方法
最低賃金の計算方法は、時給制・日給制・月給制など給与の算出方法によって異なります。それぞれの算出方法別についてご紹介します。
時給制の場合(時給≧最低賃金額)
最低賃金は1時間あたりの賃金で表示されているため、提示されている時間給が、対象勤務地の地域別最低賃金を上回っていれば問題はありません。
日給制の場合(日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額)
日給制の場合、1時間あたりの賃金を算出する必要があります。諸手当についても1時間あたりに換算して賃金と合算します。
月給制の場合(月給÷1か月の平均所定労働時間≧最低賃金額)
月給制の場合も時間給との比較ができないため、1時間あたり賃金の算出が必要です。日給制の場合と同様に、基本給と諸手当の合算が最低賃金の対象となります。
最低賃金の引き上げによる課題
以前にも、コラム「2023年10月〜最低賃金はいくらになる? 全国一覧と採用時の対策・注意点」にてご紹介しましたが、最低賃金の引き上げによって、企業へはさまざまな影響や課題が発生します。以下に主な課題について挙げていますので、ご参考にしてください。
人件費の負担が増え、新たな人材の採用難易度も高まる
最低賃金の引き上げにより、企業がもっとも影響を受けるのが人件費の負担増です。たとえば、時給が50円上がった場合、フルタイム(週40時間)で働く従業員に対する負担額は、1か月あたり8,000円ほどの増額となります。
とくに中小企業などは、場合によっては雇用する人数や雇用時間の見直しが必要となってくる可能性もあります。現在は大丈夫でも、この先、政府が目標とする「2030年代半ばまでに最低賃金1,500円」を考慮して、人件費の負担増への備えを考えておく必要があります。
また、人件費の負担が膨らめば、人材の確保・採用難易度が高まるおそれがあります。最低賃金の引き上げによって、周囲の企業も一律に賃金を上げれば時給での差別化が難しくなり、求人を出しても思うような人材からの応募が集まらない可能性があります。よい人材を確保するためには、周囲の企業よりも賃金を高く設定するなど、さらにコストをかけなければいけなくなります。
扶養範囲内で働く従業員の労働時間の調整が必要になる
最低賃金の引き上げは、扶養内で働くパート労働者などにとっては大きな壁となります。年間の収入が扶養範囲を超えると、税金や社会保険料の支払い義務が発生するため、手取り額が減ってしまうケースがあります。
そのため、労働時間を減らして調整しなければならず、パート従業員を多く採用している企業では人手不足に陥ってしまう可能性もあるため注意が必要です。
ベテラン従業員のモチベーションが低下する
最低賃金の引き上げにともない、新たに募集する人材のみの賃金を引き上げて、最低賃金を上回っている既存従業員の賃金の見直しが手薄になっているケースがよくあります。新人の時給は毎年上がっているのに、ベテラン従業員の賃金は長年据え置きでは、不平等に感じられる可能性もあるでしょう。
また、固定残業代を採用している場合にも賃金の見直しが必要となります。最低賃金の引き上げのタイミングでは、新たに採用する人材だけでなく、全従業員の処遇の見直しをセットで行う必要があります。
最低賃金の引き上げへの対応策
最低賃金の引き上げは、企業にとっては避けられない課題となってることは事実ですが、これを機に、労働時間を見直したり、新しい採用方法に取り組むなど、企業としてステップアップできるチャンスでもあります。ここでは、最低賃金の引き上げに備えて、企業が取るべき対応策について解説します。
従業員の労働時間を短縮する
労働時間の見直しによって、人件費を抑えることができます。とくに、残業代を多く支払っている企業では、労働時間を短縮するといった対応策を検討してみましょう。
たとえば、時間外労働を夜型から朝方にシフトする、誰がやっても一定の結果がでるような業務はアウトソースする、リモートワークの導入などがあります。すぐにできる取り組みとしては、従業員に対して、定時退社を徹底するように促すといった対策も効果的です。
新しい採用方法に取り組む
前述でもお伝えしたとおり、最低賃金の引き上げによって、新たな人材の採用難易度も高まる可能性があります。従来の採用方法に固執するのではなく、新しい方法を導入することで、これまでに出会えなかった多様な人材からの応募も期待できます。
たとえば、ソーシャルリクルーティングを活用すれば、SNSを通じて求職者とコミュニケーションをとることも可能です。また、スケジュール調整がしやすいオンライン面談を導入すれば、より多くの求職者と接触することができるため、採用の成功率アップが期待できます。
なお、SNS採用の活用法や、応募したくなる求人の書き方については、こちらのコラムで詳しくご紹介していますのでご参考にしてください。
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まとめ:最低賃金の引き上げを、企業の成長の機会と捉えて対策することが大事
最低賃金の引き上げは、2021年度から3年連続で過去最大の引き上げ幅となっているため、人件費の増加や採用の難易度の上昇など、企業にとって大きな課題となっています。
本記事でお伝えしたとおり、コスト増の課題ばかりに注目せず、事前に課題への対応策を検討し、自社にとって前向きな取り組みを進めることで、企業の成長のチャンスと捉えることができるでしょう。
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