2025年9月に発表された「令和7年度地域別最低賃金の全国一覧」において、2025年度の最低賃金は全国平均で過去最高の66円引き上げて1,121円へ改定との提示がされました。この大幅な改定により、企業は必要に応じて経営や採用戦略の見直しが必要となります。
本コラムでは、2025年度の最低賃金の大幅な引き上げの背景や、改定に伴う課題と対応策について解説します。ぜひご参考にしてください。
最低賃金の概要
最低賃金の概要と、2025年度の改定が過去最高の引き上げ幅となった背景について解説します。
最低賃金とは
最低賃金とは、労働者が受け取ることができる賃金の最低限度を定めた法律や規則のことです。これは、労働者が生活できる最低限の収入を保障するために設けられています。最低賃金は都道府県など地域によって異なり、経済状況や物価、労働市場の状況に応じて定期的に見直されることがあります。
地域別に決定される最低賃金は、時給支給のパートタイムやアルバイトだけでなく、正社員や契約社員など雇用形態や職種に関係なく、各都道府県内の事業所で働く労働者に共通して適用されます。
また、最低賃金を下回る賃金で働かせることは法律で禁止されており、最低賃金を下回る賃金を支払った企業や経営者には、罰金(50万円以下)が課せられます。これにより、労働者の権利を保護し、貧困の軽減を図ることが目的とされています。
最低賃金の決め方
最低賃金の改定は、政府や関連機関が最低賃金の水準を見直し、毎年7〜8月ごろに引き上げ額の目安が発表され、毎年10月ごろに行われます。これに先立ち、中央最低賃金審議会より最低賃金引き上げ額の目安が、都道府県の経済実態に応じて分けられたABCの3ランクごとに提示されますが、2025年度はABCの3ランクとも63円以上の引き上げ額が示されました。
各都道府県に適用される目安のランク
ランク | 都道府県 | 金額 |
---|---|---|
A | 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 | 63円 |
B | 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、 長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、 広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 | 63円 |
C | 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、 宮崎、鹿児島、沖縄 | 64円 |
2025年度の最低賃金引き上げの背景
2025年度の最低賃金が過去最高の引き上げ幅となった背景には、主に以下の要因が挙げられます。
- 物価高騰の影響
近年続く物価高騰は、労働者の生活費を圧迫しており、実質賃金の低下を防ぐためにも最低賃金の引き上げが不可欠とされています。
- 政府の方針
政府は、持続的な経済成長と分配強化を目指し、最低賃金の引き上げを重要な政策のひとつとして位置づけています。とくに、中小企業の賃上げを支援する施策も同時に推進されています。
- 国際的な動向
主要先進国と比較して日本の最低賃金が低いという指摘もあり、国際的な水準に近づけるための動きも背景にあります。2025年度の最低賃金が適用されると、すべての都道府県で時給1,000円を超えることになります。
全国の最低賃金一覧
2025年度における各都道府県の最低賃金は、10月1日以降、順次適用されます。以下の表では、47都道府県の改定後の最低賃金と引き上げ額、発効予定日をまとめています。
都道府県 | 最低賃金(円) | 引き上げ額(円) | 発効予定日 |
---|---|---|---|
北海道 | 1,075 | 65 | 2025年10月4日 |
青森 | 1,029 | 76 | 2025年11月21日 |
岩手 | 1,031 | 79 | 2025年12月1日 |
宮城 | 1,038 | 65 | 2025年10月4日 |
秋田 | 1,031 | 80 | 2026年3月31日 |
山形 | 1,032 | 77 | 2025年12月23日 |
福島 | 1,033 | 78 | 2026年1月1日 |
茨城 | 1,074 | 69 | 2025年10月12日 |
栃木 | 1,068 | 64 | 2025年10月1日 |
群馬 | 1,063 | 78 | 2026年3月1日 |
埼玉 | 1,141 | 63 | 2025年11月1日 |
千葉 | 1,140 | 64 | 2025年10月3日 |
東京 | 1,226 | 63 | 2025年10月3日 |
神奈川 | 1,225 | 63 | 2025年10月4日 |
新潟 | 1,050 | 65 | 2025年10月2日 |
富山 | 1,062 | 64 | 2025年10月12日 |
石川 | 1,054 | 70 | 2025年10月8日 |
福井 | 1,053 | 69 | 2025年10月8日 |
山梨 | 1,052 | 64 | 2025年12月1日 |
長野 | 1,061 | 63 | 2025年10月3日 |
岐阜 | 1,065 | 64 | 2025年10月18日 |
静岡 | 1,097 | 63 | 2025年11月1日 |
愛知 | 1,140 | 63 | 2025年10月18日 |
三重 | 1,087 | 64 | 2025年11月21日 |
滋賀 | 1,080 | 63 | 2025年10月5日 |
京都 | 1,122 | 64 | 2025年11月21日 |
大阪 | 1,177 | 63 | 2025年10月16日 |
兵庫 | 1,116 | 64 | 2025年10月4日 |
奈良 | 1,051 | 65 | 2025年11月16日 |
和歌山 | 1,045 | 65 | 2025年11月1日 |
鳥取 | 1,030 | 73 | 2025年10月4日 |
島根 | 1,033 | 71 | 2025年11月17日 |
岡山 | 1,047 | 65 | 2025年12月1日 |
広島 | 1,085 | 65 | 2025年11月1日 |
山口 | 1,043 | 64 | 2025年10月16日 |
徳島 | 1,046 | 63 | 2026年1月1日 |
香川 | 1,036 | 66 | 2025年10月18日 |
愛媛 | 1,033 | 77 | 2025年12月1日 |
高知 | 1,023 | 71 | 2025年12月1日 |
福岡 | 1,057 | 65 | 2025年11月16日 |
佐賀 | 1,030 | 74 | 2025年11月21日 |
長崎 | 1,031 | 78 | 2025年12月1日 |
熊本 | 1,034 | 82 | 2026年1月1日 |
大分 | 1,035 | 81 | 2026年1月1日 |
宮崎 | 1,023 | 71 | 2025年11月16日 |
鹿児島 | 1,026 | 73 | 2025年11月1日 |
沖縄 | 1,023 | 71 | 2025年12月1日 |
最低賃金改定により企業がとるべき対策
最低賃金の引き上げによって、企業がとるべき主な対策について以下に挙げています。
日給や月給が最低賃金より下回っていないか
最低賃金は、時給支給のパートタイムやアルバイトだけでなく、正社員や契約社員など雇用形態や職種に関係なく適用されます。最低賃金の計算方法は、時給制・日給制・月給制など給与の算出方法によって異なるため、それぞれの算出方法についてご紹介します。
また、試用期間中についても最低賃金を下回ることは違法となりますので注意が必要です。
試用期間の求人の書き方についてはこちらのコラムをご参考にしてください。

時給制の場合(時給≧最低賃金額)
最低賃金は1時間あたりの賃金で表示されているため、提示されている時間給が、対象勤務地の地域別最低賃金を上回っていれば問題はありません。
日給制の場合(日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額)
日給制の場合、1時間あたりの賃金を算出する必要があります。諸手当についても1時間あたりに換算して賃金と合算します。
月給制の場合(月給÷1か月の平均所定労働時間≧最低賃金額)
月給制の場合も時間給との比較ができないため、1時間あたり賃金の算出が必要です。日給制の場合と同様に、基本給と諸手当の合算が最低賃金の対象となります。
参考:厚生労働省|必ずチェック 最低賃金
扶養内で働く従業員の労働条件を見直す
最低賃金が引き上げられると、扶養内で働くパート社員の時給も上昇しますが、年収が一定の金額を超えると扶養控除が適用されなくなることがあります。
その場合、収入が増えても手取りが減少するため、従業員の希望に応じて、労働時間を減らして調整しなければならず、パート従業員を多く採用している企業では人手不足に陥ってしまう可能性もあるため注意が必要です。
もしくは、最低賃金の引き上げにより、収入が増えた結果、これまで扶養内で働いていたパート社員が社会保険の適用対象となるケースがあります。これにより、企業による保険料の負担が増えることや、保険の適用範囲が変わることが考えられます。
これらの課題に対処するためには、従業員と話し合いの機会をもち、柔軟な雇用形態や労働条件を提供することが求められます。
必要に応じて求人に掲載している時給を修正する
最低賃金が引き上げられることで、企業は求人に記載した時給を見直す必要があります。とくに、最低賃金に近い時給で募集している場合は、改定後に時給の書き換えが必須です。また、書き換えの際、地域によって最低賃金の適用開始日が異なるので注意しましょう。
給与額は、求職者がもっとも注目するポイントです。優秀な人材を確保するためにも、この機会に同業他社の給与相場をリサーチし、求人の時給を適切に修正することもひとつの方法です。
人材の採用難易度が上がるため新たな採用手法が必要
最低賃金の引き上げにより、求職者はより高い時給を期待するようになるため、人材の採用難易度が上がることが予想されます。また、企業はそれに見合う賃金を提示したり、採用戦略を見直すなどの必要が出てきます。
最低賃金が改定されるたびに、「求人の書き換えや同業他社の相場をリサーチするといった時間がない」「具体的にどのように採用戦略を見直せばよいかわからない」という場合は、新たな採用手法として、採用管理システム(ATS)の活用がおすすめです。
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まとめ:最低賃金の改定を機に、採用手法の見直しを
最低賃金の引き上げは、人件費の増加や採用難易度の上昇など、とくに中小企業の経営にさまざまな影響を与える可能性があります。企業は、本文でお伝えした対策に加えて採用手法を見直すなど、柔軟な対応が求められるでしょう。
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