採用活動を成功させるためには、むやみに求職者にアプローチしたり、求人を作成したりするのではなく、どんな人物を採用したいのか? といったイメージを明確にすることが重要です。
この人物像を明確にしたものが「採用ペルソナ」です。採用ペルソナを設計することで、効果的な採用戦略が練りやすくなり、より自社にフィットする人材を効率的に採用することが可能になります。採用ペルソナの作り方がわからないという方に向けて、本コラムでは、その重要性や設計方法について解説していきます。ぜひ、ご参考にしてください。
目次
採用ペルソナとは?
採用ペルソナとは、企業が採用したい人物像を明確にするために設計する「理想の候補者像」を指します。一般的にマーケティング活動では、理想の顧客像を想定した「顧客ペルソナ」を設計しますが、採用活動においても同様に、理想的な候補者のイメージを具体化することが大切です。
年齢、性別、スキル、価値観などをもとに、詳細な採用ペルソナを設計することで、企業は採用活動の方向性を明確にし、自社にフィットする人材を効率的に採用できるようになります。また、採用担当者や現場社員の間で共通認識があると、採用活動全体の効率化にもつながります。
なぜ採用ペルソナが重要なのか
採用ペルソナが重要である理由は、自社に最適な人材採用につながりやすくするためです。とくにインターネット経由での採用が主流となった現代において、求める人物像が曖昧なままではミスマッチが起こりやすく、採用後の早期退職や無駄なコストの浪費につながる可能性があります。ペルソナを明確にすることで、採用担当者、現場社員、経営層の間で人物像を共有でき、選考基準も統一されるため、公平かつ効率的な採用が実現します。
また、ペルソナがあると、どのような手法でアプローチすべきか、どのような情報を発信すべきかが具体化され、効率的な採用活動が可能となります。結果として、ペルソナ設計は採用コストの削減や人材の定着率向上に役立ちます。
ペルソナとターゲットの違いとは
ペルソナと混同されがちなものに、「ターゲット」があります。両者は似て非なるもので、その違いは具体性と詳細さにあります。ターゲットは、年齢や性別、職歴などの属性で特定の層を絞り込むものであり、大まかな候補者像つまり集団やその範囲を描く手法です。
一方、ペルソナは、架空のひとりの人物を設定し、その人物の価値観や行動特性、趣味嗜好まで詳細に設計します。ペルソナは単なる属性情報だけでなく、具体的なライフスタイルや性格、キャリア志向まで考慮されるため、より深い洞察を持って選考を行うことができます。これにより、企業全体での共通理解が深まり、より正確な採用が可能となります。
採用ペルソナを設計するメリット
採用ペルソナを明確にすることで、関係者間で求める人物像の共通認識が得られるだけでなく、企業文化や価値観にマッチした人材を効率的に採用できるようになります。ここでは、採用ペルソナを設計する具体的なメリットを解説します。
関係者間で求める人物像の共通認識を持てる
採用ペルソナを設計するメリットのひとつは、自社が求める人物像に対して、関係者同士で共通認識を持つことができる点です。
採用プロセスにおいて、採用担当者、現場社員、経営層がそれぞれ異なる期待や基準を持つことは少なくありません。このような状況では、選考基準がバラバラになり、採用がスムーズに進まないことが多いです。
しかし、採用ペルソナを設定しておくことで関係者間での齟齬を防ぎ、全員が同じ基準で候補者を評価できるようになり、面接や選考の過程でも迷いが少なくなります。結果的に、適切な人材を採用する確率が高まり、ミスマッチの防止も期待できるでしょう。
自社にマッチした人材の応募獲得・採用につながる
緻密な採用ペルソナの設計は、自社にマッチする人材の応募獲得や採用成功の可能性を高めます。なぜならペルソナが明確であれば、自社の魅力やメッセージを的確に伝えられるため、応募者からの共感を得られやすくなります。
また、応募者自身が自分の価値観や希望条件に合致しているかあらかじめ判断しやすくなるため、応募後の選考辞退や、入社後の早期離職を防ぎます。結果的に採用コストの抑制やパフォーマンスの発揮につながるでしょう。
採用活動の効率化により採用コストの抑制につながる
採用ペルソナの設計は、採用活動の効率化を促進し、結果的に採用コストの抑制にもつながります。採用ペルソナをもとに選考を進めることで、企業側は無駄な応募やミスマッチを減らすことができ、採用活動プロセスの効率化が可能になります。
効率的な採用活動は、無駄なリソースやコストの浪費を防ぎ、限られた採用予算のなかでも最適な人材を獲得する手助けとなるでしょう。また、入社後の定着率が向上すれば、早期退職が減るため、長期的な視点で採用コストの削減につなげることが可能です。
採用ペルソナの構成要素
採用ペルソナを設計する際には、いくつかの要素を詳細に設定することが重要です。採用ペルソナを構成する主な要素は「属性情報」「スペック情報」「タイプ情報」の3つです。
それぞれの要素を具体的に設計することで、企業が求める人材の全体像を明確に捉えることが可能となります。
属性情報(年齢・性別・家族構成など)
属性情報とは、採用ペルソナのベースとなる基本的な情報です。この情報には、年齢、性別、家族構成、住居地域、学歴などが含まれます。
たとえば、中途社員のペルソナを作成する場合、「35歳、男性、既婚、子供ふたり、大阪市内在住、大学卒業」、新卒採用の場合は「22歳、女性、独身、地方出身、一人暮らしを予定」などの情報が考えられます。さらに、年収レンジや生活スタイルなども考慮することで、日常の背景がイメージしやすくなります。
スペック情報(職務経験・スキル・資格など)
スペック情報とは、その人物が持つ職務経験やスキル、保有資格に関する具体的な情報を指します。採用する職種に必要なスキルや経験、資格を明確にすることで、選考時の判断基準がはっきりします。
たとえば、介護職の採用ペルソナでは、「介護職経験3年、介護福祉士資格保持、認知症ケアの実務経験」といった情報を設定できます。また、介護記録システムの操作経験や、介護チームをまとめたリーダー経験なども考慮し設定します。
さらに、「入浴介助や排泄介助における専門知識を持ち、家族とのコミュニケーション能力に優れている」といったスキルも含めると、より具体的な人物像が浮かびあがります。
タイプ情報(価値観・趣味・志向性など)
タイプ情報とは、その人物の内面的な部分、つまり価値観や志向性、趣味、ライフスタイルなどを表す情報です。これらの情報を明確にすることで、企業文化やチームとの相性を見極めやすくなります。
たとえば、介護職では「相手の立場に立って寄り添い、思いやりを持ってケアに取り組むタイプ」や「人の生活を支え、やりがいを感じることがモチベーションになる」といった価値観が重要です。また、「高齢者とのコミュニケーションが好きで、心身のケアを積極的に提供したい」という志向性も大切です。
趣味やライフスタイルについては、「料理や手芸など家庭的な趣味を持っており、細やかな気遣いができる」「週末はボランティア活動に参加しており、人のために役立つことが喜び」といった具体例を設定すると、人物像がより立体的になります。これにより、企業や施設のカルチャーに合う人材をみつけやすくなります。
採用ペルソナのフォーマット
ここまで採用ペルソナの重要性や構成要素をお伝えしましたが、具体的なイメージが湧かない方も多いでしょう。ここでは、採用ペルソナのフォーマット例をご紹介します。具体的に記載すべき項目は後述しますので、まずは採用ペルソナを設計する際の全体イメージとしてご参考にしてください。
新卒採用のフォーマット
新卒採用では、求職者の職務経験が少ないため、学歴や趣味、価値観などにフォーカスした要素を中心に設計します。
ペルソナ設計シート | |
氏名 | 阿部 健太 |
性別 | 男性 |
年齢 | 21歳 |
学歴(大学名、学部名、専攻など) | 美術大学 デザイン学科 |
家族構成 | 父、母、妹 |
同居人数 | 4人 |
性格 | 物腰は柔らかい一方で自分の意見はハッキリという |
趣味・特技 | スマホゲーム、サッカー観戦 |
部活やサークル活動 | フットサル |
経験・スキル | デザイン会社でのアシスタント業務 |
志望動機(どのような企業で働きたいか、どんな仕事をしたいか) | 企業の知名度や規模よりも、自分が心から取り組める仕事をしたい |
仕事のスタンス(仕事に対する考え方) | 勤務時間に縛られることなく、柔軟な働き方を希望 |
企業に求めること(成長機会、働きやすさ、社内の雰囲気など) | 社内の交流が活発 |
デジタルプロフィール(利用しているSNSやアプリ、デジタルツール) | Instagram、Tik Tok、Youtube |
実際に書き込めるフォーマットをご用意しました。次の章でご紹介する採用ペルソナを設計するステップやポイントを参考にしながら、ご利用ください。
中途採用のフォーマット
中途採用では、求職者の職務経験が重要な要素になるため、スキルや業務内容、転職理由などにフォーカスした要素を中心に設計します。
ペルソナ設計シート | |
氏名 | 酒井 景子 |
性別 | 女性 |
年齢 | 35歳 |
学歴(大学名、学部名、専攻など) | ◯◯大学 看護学科 |
家族構成 | 夫、娘(4歳) |
同居人数 | 3人 |
性格 | 人のお世話をするのが苦ではない |
職務経験(現在および過去の職種、仕事内容、勤続年数) | 外科、内科、整形外科、小児科を設置した病院にて、看護師として勤務。新卒より産休・育休を経て約10年間勤務 |
スキル・資格(保有資格、専門スキルなど) | 看護師免許 |
現在の役割・業務内容 | 正看護師として、病院での看護業務全般(夜勤あり) |
転職理由(キャリアアップ、ワークライフバランスの改善、企業文化への違和感など) | 子供が小さい間は、ワークライフバランスを考え日勤のみでの勤務希望 |
仕事のスタンス(仕事に対する考え方) | 効率化を重視。オン・オフの切り替えを徹底している |
企業に求めること(働きやすさ、成長の機会、報酬、福利厚生) | 子育てしながら無理のない働きやすさ |
デジタルプロフィール(利用しているSNSやアプリ、デジタルツール) | Instagram、Youtube |
実際に書き込めるフォーマットをご用意しました。次の章でご紹介する採用ペルソナを設計するステップやポイントを参考にしながら、ご利用ください。
採用ペルソナを設計する4つのステップ
採用ペルソナを効果的に設計するためには、段階的なプロセスが必要です。経営層や現場の声を反映しながら、具体的な人物像を描き、関係者間で認識を揃えることが成功への鍵となります。ここでは、採用ペルソナを設計するための4つのステップを解説します。
【ステップ1】経営層・現場社員にヒアリングする
まず最初に行うべきステップは、経営層や現場社員にヒアリングを行い、自社にとって必要な人材像を明確にすることです。経営層からは会社のビジョンや将来の事業展開をもとに、必要とする人物像を聞き出し、現場社員からは実際に一緒に働く際に必要なスキルや人柄について意見を集めます。「現在職場で活躍中の従業員」や「直近で採用し、しっかり定着している従業員」など具体的に挙げながら整理する方法もおすすめです。
これにより、会社全体で必要とされる人材の基準が明確になります。ヒアリングを通じて経営の方向性と現場のリアルなニーズが一致した人物像を作ることで、採用活動のミスマッチを防ぎ、企業と求職者の双方にとって有益な採用が可能となります。
【ステップ2】求める人物像の要件を洗い出す
次に行うのは、求める人物像の要件を洗い出す作業です。この段階では、ヒアリングをもとに具体的なスキルや経験、求める性格特性や価値観などをリストアップします。たとえば、職種ごとに「3年以上の営業経験」「チームリーダーとしての実績」など、細かい要件を出すことが重要です。
さらに、これらの要件には「なぜそのスキルや特性が必要なのか?」や「採用後にどのような活躍が期待されるのか?」を明確にすることで、採用プロセス全体の精度が高まります。細かく要件を設定することにより、選考時に必要な判断基準が明確となり、採用の効率化が進みます。
【ステップ3】人物要件を整理して具体的な人物像に落とし込む
求める人物像の要件を洗い出した後は、それらを整理し、具体的な人物像として落とし込む作業を行います。単にスキルや経験をリスト化するだけではなく、どのような性格や価値観を持った人物が自社に適しているのか、ペルソナとして具体化していくことが重要です。
たとえば、「30代前半、業界での経験が豊富で、リーダーシップを発揮できる」「常に新しいチャレンジを求め、チームと協力して成果を出すことにやりがいを感じる」など、架空の人物像として描くことで、採用活動がより具体的かつ現実的なものとなります。このプロセスを経て、採用する人材像がはっきりと可視化され、適切な候補者を見極める手助けとなります。
【ステップ4】関係者に共有しブラッシュアップする
最後のステップは、設計したペルソナを関係者に共有し、見直しの意見を集めて調整することです。経営層、現場社員、人事担当者など、採用に関わるすべてのメンバーにペルソナを共有し、自社の現状や理想に合致しているかを確認します。
また、実際に採用活動を進めるなかで、イメージから外れた候補者が現れた場合にはペルソナを再評価し、柔軟に調整することも必要です。関係者全員が同じビジョンを持ち、共通認識を持って採用活動を進めることで、より高精度な採用活動が実現し、企業にとって最適な人材を獲得できる可能性が高まります。
採用ペルソナを設計する際のポイント
採用ペルソナを効果的に設計するためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。ペルソナを設計する際、現実的で柔軟な視点を持つことが大切です。ここでは、採用ペルソナを設計する際のポイントをご紹介します。
現実的な人物像を設計する
採用ペルソナを設計する際にもっとも重要なのは、現実的な人物像を描くことです。理想的なスキルセットや経験をすべて備えた「完璧な人材」を想定すること自体は容易ですが、現実にはそのような人材は少ないか、存在しない可能性が高いです。
企業が求める要件が高すぎると、候補者の母集団が極端に狭くなり、採用の難易度があがるため、現実的な期待値を設定することが大切です。実際に自社で活躍している社員をモデルにして、スキルや経験だけでなく、その人の価値観や人柄にも着目すると、企業にフィットした現実的なペルソナを設計でき、採用活動の精度が高まるでしょう。
ペルソナは複数設計する
効果的な採用ペルソナを設計するためには、ひとつの人物像だけではなく、複数のペルソナを設計することが重要です。企業が求める人材は、多様なスキルセットや価値観を持つ可能性があるため、特定の人物像だけに限定してしまうと、採用の幅が狭くなるためです。
とくに、異なる職種や役職に応じた複数のペルソナを用意することで、求職者の多様性を受け入れる準備が整い、組織全体が豊かになります。複数のペルソナを設計することは、企業の成長に向けた柔軟な採用戦略を実現し、最適な人材を確保するための基盤構築にもつながります。
要件を細かく設計しすぎない
ペルソナを設計する際、要件をあまりに細かく設定しすぎると、柔軟性が失われ、採用プロセスが不必要に制約されるリスクがあります。たとえば、特定のスキルや経験に過度に焦点を当てると、ほかの有能な候補者を見逃してしまう可能性があります。したがって、要件には柔軟性を持たせ、候補者が自らの能力を発揮できるポテンシャルに着目することが大切です。
最低限の必要条件を設定しつつも、あくまでその条件はガイドラインとして捉えましょう。そのうえで、面接時には個別のスキルや人間性にも注目することで、より多くの可能性を探ることができるようになります。
採用活動全体を通じて採用ペルソナを意識し続ける
採用ペルソナは、設計しただけで終わりではなく、採用活動全体を通じて意識し続けることが重要です。採用活動ではさまざまな施策を通じて、多くの候補者と接点をとる必要があります。その際に、採用ペルソナを意識しなければ、採用活動の一貫性がなくなり、結果としてミスマッチの増加につながりかねません。
面接や評価の段階でも、常にペルソナを確認し、採用基準にもとづいた意思決定が行われているかを確認することが必要です。企業全体として一貫した採用活動を行うことで、自社に最適な人材の採用成功につながるでしょう。
ご紹介した採用ペルソナを設計するステップやポイントを参考にしながら、実際に書き込めるフォーマットをご用意しました。ぜひ、ご活用ください。
なお、求人の書き方についてはこちらのコラムでご紹介していますので、あわせてご参考にしてください。
応募したくなる求人の書き方とは? 魅力的な文章や広告をつくる5つのコツまとめ:採用ペルソナを設計して採用活動力を高めましょう!
採用ペルソナを設計することは、採用活動を効果的に進め、自社にマッチした人材を確保するための重要なステップです。経営層や現場の意見を反映しながら、現実的で具体的な人物像を描くことで、ミスマッチを防ぎ、長期的に活躍できる人材を採用できます。また、採用プロセス全体を通じて一貫した基準を持つことが、成功の鍵となります。
もし、採用ペルソナの適切な設計の仕方がわからない方や、どのように採用ペルソナを見直したらよいかお悩みを抱えている方は、専門家に相談することがおすすめです。
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